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平成22年(行ケ)第10056号審決取消請求事件

判例航海日記

平成26年9月26日

弁理士 村松大輔

 

平成22年(行ケ)第10056号審決取消請求事件

 

1.事件の概要

(1)特許庁における手続の経緯

平成18年4月14日  本件特許登録(特許第3793216号)

平成21年5月19日  無効審判請求

平成21年8月3日      訂正の請求

平成22年1月26日  無効審決

 

(2)訂正後の特許請求の範囲

【請求項1】

複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと,

該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,

前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と,

搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有し,前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において,

前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,

少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と,

前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部と,

前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と,

を有することを特徴とする液体インク収納容器。

 

[引用発明(特開2002-370378号公報)]

複数の印刷記録材容器をキャリッジ移動方向に並ぶ互いに異なる位置に装着して移動するキャリッジと,

印刷記録材容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,

各印刷記録材容器に対応して設けられ,装着されていない印刷記録材容器を発光で表示する表示ランプと,

装着される印刷記録材容器それぞれの接点と接続する装置側接点に対して共通に電気的接続し印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報を送信するための配線を有した電気回路とを有する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な印刷記録材容器において,

前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,

印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報を保持する記憶素子と,

前記接点から入力される印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報に係る信号と,記憶素子の保持する印刷記録材容器のインク色を識別するための識別情報とが一致した場合に,応答信号を前記配線を通じて印刷装置側の制御回路に対して送り返す動作を制御する記憶装置と,

を有する印刷記録材容器。

 

2.審決の概要

【本件発明1と引用容器発明の一致点】

「複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと,

該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,

搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に

対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有し,記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において,

前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,

少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と,

前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて応答する制御を行う制御部と,

を有する液体インク収納容器。」である点。

 

【本件発明1と引用容器発明の相違点】

・相違点1

「本件発明1は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が搭載される側の記録装置が,『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』を有し『前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する』記録装置,と特定されるのに対して,引用容器発明は該特定を有しない点。」

 

・相違点2

「本件発明1は,『液体インク収納容器』(印刷記録材容器)が,『前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部と,・・・を有する』,と特定されるのに対して,引用容器発明は該特定を有しない点。」

 

・相違点3

「本件発明1は,『制御部』が,『前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部』,と特定されるのに対して,引用容器発明は該特定を有しない点。」

 

【相違点について】

・相違点1について

本件発明1は液体インク収納容器の発明である。これに対して,本件発明1の相違点1に係る構成は,液体インク収納容器が搭載される側の記録装置の構成であるから,相違点1は実質的な相違点ではない。

なお,本件発明1の液体インク収納容器が搭載される側の記録装置の構成を,本件発明1の相違点1に係る構成を備えた記録装置とすることが,周知技術に基づいて,当業者が容易になし得た点については,上記『第7 本件発明3についての当審の判断』のc.~e.で述べたのと同様である。

・相違点2について

複数の液体インク収納容器が記録装置のキャリッジの所定位置に搭載される場合において,交換されるべき液体インク収納容器が誤りなく選択されるように,交換すべき液体インク収納容器をユーザにわかりやすく表示するべく引用容器発明の液体インク収納容器に発光部を設けることは,周知技術に基づいて,当業者が容易になし得る程度のことである。

本件発明1は液体インク収納容器の発明であり,液体インク収納容器の発光部からの光を受光する受光手段を記録装置が備えるか否かは記録装置側の構成に依存するから,相違点2における『前記受光手段に投光するための』との限定は,液体インク収納容器の発光部の構成を限定するものではない。

また,液体インク収納容器の発光部からの光を受光する受光手段を記録装置に設けることは,上記『第7 本件発明3についての当審の判断』のc.で述べたとおり,周知技術を適用して当業者が容易になし得ることであり,そうした場合,液体インク収納容器の発光部は『受光手段に投光するための光を発光する発光部』となる。

以上のことから,引用容器発明において,本件発明1の相違点2に係る構成を備えることは,周知技術に基づいて,当業者が容易になし得たことである。」

・相違点3について

引用容器発明の制御部(記憶装置)は,上記『第7 本件発明3についての当審の判断』のd.で述べたと同様に,検出対象である液体インク収納容器の色情報を発するものであるから,引用容器発明の液体インク収納容器に発光部を設ける際に,該発光部を利用して受光部が受光できるよう,引用発明の液体インク収納容器の制御部(記憶装置)を,接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持部の保持する前記色情報とに応じて発光部を発光させるような制御部とし,引用容器発明が,本件発明1の相違点3に係る構成を備えるようにすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。

 

3.裁判所の判断

本件発明1の特許請求の範囲は前記のとおりであるところ,それによれば,本件発明1の構成が,液体インク収納容器とそれを搭載する記録装置を組み合わせたシステムを前提にして,そのうち液体インク収納容器に関するものであって,上記システムに専用される特定の液体インク収納容器がこれに対応する記録装置の構成と一組のものとして発明を構成していることは明らかである。

したがって,本件発明1の容易想到性を検討するに当たり,記録装置の存在を除外して検討するのは誤りであり,相違点2における「前記受光手段に投光するための」との限定は,液体インク収納容器の発光部の構成を限定するものであるということができ,これに反する相違点2についての審決の判断には誤りがある。

そして,本件発明3と同様に,引用容器発明に甲3,21,22号証等で開示された周知技術ないし事項を適用しても,本件発明1の優先日当時,当業者において,本件発明1と引用容器発明の相違点に係る構成を容易に想到し得るものではない。

したがって,本件発明1の容易想到性に係る審決の判断は誤りである。

 

4.考察

 本件判決は、いわゆるサブコンビネーション発明の認定について参考となる。サブコンビネーションとは、二以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明や、二以上の工程を組み合わせてなる製造方法の発明等(以上をコンビネーションという。)に対し、組み合わされる各装置の発明、各工程の発明等をいう。

 本件発明は、記憶装置というコンビネーションにおける、液体インク収納容器というサブコンビネーションに係る発明であり、記憶装置側の構成(装置側接点、受光手段など)により特定されている。

 

 審決は、このような記憶装置側の構成に係る特定事項について、液体インク収納容器の構成を限定するものではないとの判断を示した。

 しかし、裁判所は液体インク収納容器が記憶装置の構成と一組のものとして構成されている点に触れ、『「前記受光手段に投光するための」との限定は,液体インク収納容器の発光部の構成を限定するものである』と判断し、審決を覆した。

 

 「前記受光手段に投光するための」との特定事項は、例えば、「発光部が受光手段に対してある程度指向性のある光を発する」や、「受光手段が受光できるほどの強さを有する光を発する」といった発光部自体の構成を限定するものであることは明らかであると考えられる。

 したがって、本件発明の液体インク収納容器に備えられた発光部は、副引例に記載の発光部と構成上はっきりと区別できる。

 本件判決は妥当であろう。

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