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平成29年(行ケ)第10083号 審決取消訴訟事件

判例航海日誌

 

平成30年4月9日

みなとみらい特許事務所

技術部 座間 克也

 

平成29年(行ケ)第10083号 審決取消請求事件

 

1.事件の概要

(1)特許庁における手続きの経緯

平成17年3月28日  出願 (発明の名称「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」)

平成23年3月25日  設定登録(特許第4708059号)

平成27年9月4日   無効審判請求(無効2015-800173号)

平成28年11月21日 訂正請求

平成29年3月24日  本件訂正を認めるとともに、請求項1に係る発明についての特

            許を無効とする、請求項2及び3に係る発明についての審判請

            求は成り立たない旨の審決(本件審決)

平成29年4月22日  請求項1に係る部分の取消しを求める訴訟を提起(本件訴訟)

 

(2)訂正後の本件特許発明

【請求項1】

 外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、/前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、摩擦式精米機により搗精され、表層部から糊粉細胞層(4)までが除去された、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており、且つ米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤(9)』が残っており,/更に無洗米機(21)にて,前記糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみが分離除去されてなることを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米。

 

(3)争点

 明確性要件(特許法第36条第6項第2号):プロダクト・バイ・プロセス・クレームの判断の誤り

 

2.審決の概要

 特許発明1に係る訂正特許請求の範囲の請求項1の記載は、製造に関して経時的な要素の記載がある、あるいは、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、請求項1にはその物の製造方法が記載されているといえる。すなわち、請求項1の記載は「摩擦式精米機により搗精」という方法により(表層部から澱粉細胞層まで)「除去」し、摩擦式精米機により搗精後に、無洗米機に供給し、「無洗米機(21)にて」という方法により「『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる」「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」を特定し、その物の製造方法が記載されているといえる。

(中略)

 ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。

 しかしながら、特許明細書及び図面には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえない。

 したがって、請求項1に係る発明は明確でない。

 

3.原告の主張

 最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・民集64巻4号700頁が、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情がない限り明確性要件違反になるとした趣旨は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるが、そのような特許請求の範囲の記載は、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表わしているのかが不明であり、権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから、これを無制約に許すのではなく、前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。したがって、特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合でも、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表わしているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明確であれば、あえて明確性要件との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。

 

4.被告の主張

「本件訂正後の特許請求の範囲請求項1は、玄米粒、搗精処理された精白米、無洗米処理された無洗米と、明らかに時の経過を伴い製造プロセスを含んだ記載によって無洗米を特定しており、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームとなっている。

 また、「無洗米」という物の発明としての権利取得を希望するのであれば、無洗米機により洗米処理された後の、「無洗米の現在ある構造(構成)」のみの記載により、発明を特定しなければならないところ、上記請求項においては、無洗米機による洗米プロセスを経た後の、本来最も長く正確に記載すべき無洗米の構成は、ほとんど記載されておらず、無洗米の発明としての特定に失敗している。

 したがって、本件発明は、明確性要件を満たしていない。」

 

5.裁判所の判断

「(3)本件発明の明確性

 ア 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合)において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。しかるに,原告は,本件特許の出願時において上記「無洗米」をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在することについて,主張立証しない。

イ 他方,前記最高裁判決が,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると判示した趣旨は,特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから,これを無制約に許すのではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。そうすると,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても,上記一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技術常識から一義的に明らかな場合には,第三者の利益が不当に害されることはないから,明確性要件違反には当たらない

(中略)

 そうすると、請求項1に「摩擦式精米機により搗精され」及び「無洗米機(21)にて」という製造方法が記載されているとしても、本件発明に係る無洗米のどのような構造又は特性を表わしているかは、特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかである。よって、請求項1の上記記載が明確性要件に違反するということはできない。」

 

6.検討

 本件はいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)における明確性の判断が争点となっている。

 裁判所は本件訂正後の請求項1に係る発明の記載が、PBPクレームに該当するとしているが、特許請求の範囲及び本件明細書の記載から、請求項1に係る発明の無洗米が、どのような構造又は特性を表わしているのかが、一義的に明らかであるとして、明確性要件に違反するということはできないと判断している。

 ここで、PBPクレームに関する最高裁判決(平成24年(受)第1204号)では、PBPのクレームの明確性要件について以下のように判示している。

「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に、その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物に及ぶものとして特許請求の技術的範囲を確定するとするならば、これにより、第三者の利益が不当に害されることが生じかねず、問題がある。すなわち、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか、又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり、適当ではない。

 他方、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては、通常、当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが、その具体的内容、性質等によっては、出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど、出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく、上記のような事情がある場合には、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても、第三者の利益を不当に害することがないというべきである。

 以上によれば、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。」

 

 以上の通り、最高裁判決においても、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか、又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり、」と判示しており、本判決は、例外的に製造方法が物のどのような構造若しくは特性を表わしているかが、明細書等の記載から一義的に明らかであれば、明確性要件違反とすることはできないと判示したものである。

 

 また、特許庁は、平成28年3月30日付で、「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの明確性に係る審査ハンドブック関連個所の改訂の背景及び要点」を公表し、『特に、「その物の製造方法が記載されている場合」の類型、具体例に形式的に該当したとしても、明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載並びに当該技術分野における出願時の技術常識を考慮し、「当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表わしているのか」が明らかであるときには、審査官は、「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するとの理由で明確性要件違反とはしない。』との方向性を示しており、本判決は、これに沿ったものである。

(特許庁HP プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する審査の取り扱いについて)

http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/product_process_C151125.htm

 

しかし、前記最高裁判決に則するのであれば、訂正後請求項1に係る発明が、PBPクレームであると認めた上で、例外的に明確性要件違反ではないとする判断よりも、

製造方法が物のどうような構造若しくは特性を表わしているかが、明細書等から一義的に明らかなのであれば、当該訂正後請求項1に係る発明の製造方法についての記載は、物の構造若しくは特性を表わしているといえるため、PBPクレームに該当しない、との判断が妥当であるように思える。

 

7.実務上の指針

 原則として「物の発明」については、「その物の構造若しくは特性」で特定すべきであり、今後の出願において特許請求の範囲を作成するにあたっても、特段の事情がない限りPBPクレームは避けたほうが良いと考えられる。

 上記判決はあくまで、単に物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、必ず「不可能・非実際的事情」を示す必要があるというわけではない、という程度に捉えておくべきである。

 一方で、最高裁判決前の出願であって、請求項にPBPクレームが含まれるものについては、不可能・非実際的事情が存せず、無効理由があると思われていたものであったとしても、本判決に則り、製造方法が物のどのような構造若しくは特性を表わしているのかが、明細書等の記載から一義的に明らかであることを主張することで、無効を免れる可能性があるという点において、本判決は有用である。

 また、実務上、物の発明についての特許請求の範囲において、その製造方法が記載されている場合には、ただちに明確性要件違反となり、不可能・非実際的事情の立証を行う必要があったが、本判決に則り、明細書等の記載から当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表わしているかが一義的に明らかであることを主張することによっても、明確性要件違反を解消することができ、PBPクレームが認められる可能性の幅が広がったといえる。

以上

平成28(行ケ)10222 審決取消請求事件 お知らせ 平成29年(行ケ)第10120号 審決取消請求事件