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平成29年(行ケ)第10120号 審決取消請求事件

判例航海日誌

 

平成30年5月9日

技術部 T.S

 

「空気入りタイヤ 事件」

平成29年(行ケ)第10120号 審決取消請求事件

平成29年(行ケ)第10119号 審決取消請求事件

 

<1> 事件の概要

 本件は,特許庁が無効2015-800139号事件について平成29年4月18日にした審決に対する取消訴訟である。

 

<経緯>

発明の名称:「空気入りタイヤ」

 平成25年2月22日  :出願

 同年12月20日      :登録

(特許第5435175号。請求項の数7。)

 

 平成27年6月19日  :特許無効審判請求

(無効2015-800139号事件)

 平成28年5月26日  :訂正請求

 平成29年4月18日  :審決

 審決の結論:本件訂正を認めるとともに,請求項1及び3に係る発明についての特許を無効とする,請求項4ないし7に係る発明についての審判請求は成り立たない

 同月27日            :謄本送達

 平成29年5月26日  :本件特許の請求項4ないし7に係る部分の取消しを求める本件訴訟(甲事件)の提起

 同日                  :本件特許の請求項1及び3に係る部分の取消しを求める本件訴訟(乙事件)の提起

 平成30年2月14日:審決取消訴訟・口頭弁論終結

 平成30年4月4日:審決取消訴訟・判決言渡

      主文:特許庁が無効2015-800139号事件について平成29年4月18日にした審決のうち,特許第5435175号の請求 項1及び3に係る部分を取り消す。

<取り消し事由>

 本件発明(本件訂正後の請求項1及び3ないし7に係る発明)の進歩性に係る判断の誤り(取消事由1)

 

<2> 事件の内容

<本件発明1>

 【請求項1】トレッド部に溝が設けられている空気入りタイヤであって,

 前記空気入りタイヤの総幅SWと外径ODとの比であるSW/ODが,

 SW/OD≦0.3を満たし,

 ISO4000-1:2001に準拠する規定リム幅と前記空気入りタイヤの内径に適合したリム径とを有するリムに前記空気入りタイヤをリム組みし,230kPaで内圧を充填し,かつ前記空気入りタイヤの負荷能力の80%に相当する荷重をかけて平面に接地させたときの接地面の領域を接地領域とした場合,

 前記トレッド部の接地領域において,接地面積に対する溝面積比率をGRとし,接地幅をWとし,タイヤ赤道面を中心として接地幅Wの50%の幅を有する領域をセンター領域ACとし,前記センター領域ACでの溝面積比率をGCRとし,前記センター領域ACよりもタイヤ幅方向外側の接地領域をショルダー領域ASとし,前記ショルダー領域ASでの溝面積比率をGSRとした場合に,

 前記トレッド部の接地領域は,

 10[%]≦GR≦25[%]

 0<GSR/GCR≦0.6

 を満たして形成されており,

 前記センター領域ACにおいてタイヤ周方向に延びる周方向溝を少なくとも2本備えるとともに,前記周方向溝に挟まれタイヤ周方向に連なる陸部を少なくとも1つ備えることを特徴とする,

 空気入りタイヤ。

 

 

<本件明細書図表目録>

タイヤ本願.JPG

 

・・・・・・(本件発明3以降の発明については省略)・・・・・・・・

 

<引用発明(特開2011-207283号公報に記載の発明)

 トレッド10にタイヤ周方向tcに連続して形成された周方向溝部と,トレッド幅方向に延びる横溝部とが形成された空気入りタイヤ1であって,

 前記空気入りタイヤ1の幅SW,前記空気入りタイヤの外径ODとが,

 SW≦175mmかつOD/SW≧3.6

 を満たし,

 前記空気入りタイヤの接地面積に対する前記周方向溝部と前記横溝部とを含む溝面積の比率である溝面積比率が25%以下であり

 タイヤ周方向tcに連続する周方向溝10A,10B,10Cを3本備えるとともに,周方向溝10Aと周方向溝10Bとによって区画された周方向陸部20Aはタイヤ周方向に連なる陸部を備え,周方向溝10Bと周方向溝10Cとによって区画された周方向陸部20Bもタイヤ周方向に連なる陸部を備える,空気入りタイヤ1。

<引用例等図表目録>

タイヤ引1.JPG

 

 

<本件発明1と引用発明との対比>

<1> 一致点

 「トレッド部に溝が設けられている空気入りタイヤであって,

 前記空気入りタイヤの総幅SWと外径ODとの比であるSW/ODが,

 SW/OD≦0.3を満たし,

 タイヤ周方向に延びる周方向溝を少なくとも2本備えるとともに,前記周方向溝に挟まれタイヤ周方向に連なる陸部を少なくとも1つ備える,空気入りタイヤ。」である点。

 

<2> 相違点(判決文 第2の3⑵イ(イ))

相違点1

 本件発明1において,「ISO4000-1:2001に準拠する規定リム幅と前記空気入りタイヤの内径に適合したリム径とを有するリムに前記空気入りタイヤをリム組みし,230kPaで内圧を充填し,かつ前記空気入りタイヤの負荷能力の80%に相当する荷重をかけて平面に接地させたときの接地面の領域を接地領域とした場合,

 前記トレッド部の接地領域において,接地面積に対する溝面積比率をGRとし,接地幅をWとし,タイヤ赤道面を中心として接地幅Wの50%の幅を有する領域をセンター領域ACとし,前記センター領域ACでの溝面積比率をGCRとし,前記センター領域ACよりもタイヤ幅方向外側の接地領域をショルダー領域ASとし,前記ショルダー領域ASでの溝面積比率をGSRとした場合に,

 前記トレッド部の接地領域は,

 10[%]≦GR≦25[%]

 0<GSR/GCR≦0.6

 を満たして形成されている」のに対し,引用発明においてはそのような特定がなされていない点。

 

相違点2

 「タイヤ周方向に延びる周方向溝を少なくとも2本備える」箇所に関し,本件発明1において,「前記センター領域ACにおいて」というものであるのに対し,引用発明においてはそのような特定がなされていない点。

 

・・・・・・(本件発明3以降の相違点の認定については省略)・・・・・・・・

 

<甲4(特開昭62-152906号公報)記載の技術的事項>

(1)甲4技術(無効審判における認定)

 タイヤ踏面の幅方向(タイヤ径方向)FF’のセンター部に(おける)トレッド踏面幅Tの50%以内の領域Wの全溝面積比率を「センター部の溝面積比率」,

 残りの領域の全溝面積比率を「残りの領域の溝面積比率」とすると,\0.25≦(残りの領域の溝面積比率)/(センター部の溝面積比率)≦0.50との技術的事項(以下「甲4技術」という。)が記載されている。。

 

(2)甲4技術A(本件審決取消訴訟における認定)

 「センター領域を含めた全ての領域が溝により複数のブロックに区画されたブロックパターンについて,

 ①全溝面積比率を25%とし,かつ,前記領域(タイヤ踏面の幅方向(タイヤ径方向)FF’のセンター部におけるトレッド踏面幅Tの50%以内の領域)の全溝面積比率を残りの領域の全溝面積比率の3倍となし,

 ②前記ストレート溝と前記副溝とにより区画されたブロックに独立カーフをタイヤ幅方向に形成し,

 ③前記ブロックの各辺と前記カーフの各辺のタイヤ幅方向全投影長さLGとタイヤ周方向の全投影長さCGとの比LG/CG=2.5とする。」との技術的事項(以下「甲4技術A」という。)が記載されている。

<引用例等図表目録>

タイヤ甲4.JPG

 

<当裁判所の判断> (以下、下線部は筆者による追記

3 取消事由1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)について

 (1) 本件発明1と引用発明との対比

本件発明1と引用発明との相違点は,前記第2の3⑵イ(イ)のとおりであることは,当事者間に争いがない。

 (2) 甲4について

・・・・・・(中略)・・・・・・・・

 c 発明の構成

⒜ …乗用車用空気入りラジアルタイヤ…の踏面には,溝により複数のブロックに区画されたトレッドパターン,すなわちブロックパターンが形成されている。…

⒝ 第1図は,本発明の乗用車用空気入りラジアルタイヤのブロックパターンの一例を示す説明図である。この第1図において,タイヤ踏面の幅方向(タイヤ径方向)FF’のセンター部に踏面幅Tの50%以内の領域Wにおいて3本のストレート溝aがタイヤ周方向EE’に環状に設けられている。また,これらのストレート溝aからタイヤ幅方向FF’に延びる複数の副溝bが配置されている。本発明では,このブロックパターンにおいて,下記ないしの事項を規定したものである。

 ① 全溝面積比率を25%とし,かつ,前記領域Wの全溝面積比率を残りの領域の全溝面積比率の3倍としたこと。

・・・・・・(中略)・・・・・・・・

 ② ストレート溝aと副溝bとにより区画されたブロック1の表面に独立カーフcをタイヤ幅方向FF’に形成したこと。

・・・・・・(中略)・・・・・・・・

 ③ ブロック1の各辺とカーフcの各辺…のタイヤ幅方向FF’全投影長さLG とタイヤ周方向EE’全投影長さCGとの比LG/CG=2.5としたこと。

・・・・・・(中略)・・・・・・・・

 ウ 本件審決の認定について

 本件審決は,甲4に甲4技術が記載されていると認定した。しかし,前記アのとおり,甲4には,特許請求の範囲にも,発明の詳細な説明にも,一貫して,ブロックパターンであることを前提とした課題や解決手段が記載されている。また,前記イのとおり,甲4には,前記イ①ないし③の技術的事項,すなわち,溝面積比率,独立カーフ,タイヤ幅方向全投影長さとタイヤ周方向全投影長さの比に関する甲4技術Aが記載されている。

 そこで,これらの記載に鑑みると,上記イないしの技術的事項は,甲4に記載された課題を解決するための構成として不可分のものであり,これらの構成全てを備えることにより,耐摩耗性能を向上せしめるとともに,乾燥路走行性能,湿潤路走行性能及び乗心地性能をも向上せしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供するという,甲4記載の発明の課題を解決したものと理解することが自然である。

 したがって,甲4技術Aから,ブロックパターンを前提とした技術であることを捨象し,さらに,溝面積比率に係る技術的事項のみを抜き出して,甲4に甲4技術が開示されていると認めることはできない。よって,本件審決における甲4記載の技術的事項の認定には,上記の点において問題がある。

 (3) 相違点1及び2の容易想到性

・・・・・・(中略)・・・・・・・・

 引用例には,タイヤの接地領域について,タイヤ赤道面を中心として接地幅の50%の幅を有する領域をセンター領域として,同領域よりもタイヤ幅方向外側の接地領域と区別することや,センター領域とその他の領域における各溝面積の比率,センター領域の溝面積比率をその他の領域の溝面積比率より高めることにより,タイヤ全体の溝面積比率が比較的低いことによる排水性の低下を抑制し,操縦安定性を向上させることを示す記載はなく,これらのことを示唆する記載もない。

 また,甲4には,タイヤのセンター領域の溝面積比率を残りの領域の溝面積比率の3倍とすることなどを含む甲4技術Aが記載されているが,同技術は,乗用車用空気入りラジアルタイヤがブロックパターンを有することを前提とするものであって,ストレート溝と副溝とにより区画されたブロックに独立カーフをタイヤ幅方向に形成し,ブロックの各辺とカーフの各辺のタイヤ幅方向全投影長さLGとタイヤ周方向の全投影長さCGとの比を「LG/CG=2.5」とするという構成を併せ備えるものである。

 そうすると,当業者において,タイヤ周方向に連なる陸部を備えること,すなわちリブパターンであることに技術的意義を有するタイヤである引用発明において,必然的に周方向に連なる陸部を備えないブロックパターンであることを前提とする甲4技術Aを適用する動機付けがあるとはいえず,むしろ,阻害要因があるというべきである。

 (4) 原告の主張について

ア 原告は,①甲4に記載された「全溝面積比率を25%とし,踏面幅Tの50%以内の領域Wの全溝面積比率を,残りの領域の全溝面積比率の好ましくは3倍とする」という技術的事項は,トレッドパターンの種類にかかわらないものである,②甲4において,独立カーフは,あくまでコーナリング等の限界付近での挙動が急激で危険であるという問題を解決するための手段にすぎず,上記①の技術的事項とは,解決しようとする課題が全く別であるなどとして,甲4には甲4技術が記載されており,同技術を引用発明に適用することは容易である旨主張する。

 しかし,前記⑵のとおり,甲4技術Aは,ブロックパターンを前提とする技術であり,甲4に記載された課題を解決するための構成として不可分のものであって,前記⑵イ①ないし③の技術的事項全てを備えることにより,耐摩耗性能を向上せしめるとともに,乾燥路走行性能,湿潤路走行性能及び乗心地性能をも向上せしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供するという,甲4記載の発明の課題を解決したものである。

 そして,このようにブロックパターンであることを前提とする甲4技術Aを,リブパターンであることに技術的意義を有する引用発明に適用する動機付けがあるとはいえず,むしろ阻害要因があることについては,前記⑶のとおりである。したがって,原告の主張は採用できない。

 

 (5) 小括

 以上のとおり,本件発明1は,引用発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

 

 

<3> 実務上の指針

<前提>

(1)甲4(特開昭62-152906号公報)記載の技術的事項の認定について(判決要旨 参照)

 無効審判では、甲4には甲4技術が記載されていると認定されている。

 一方本件審決取消訴訟においては、甲4にはブロックパターンを前提とする技術的事項(甲4技術A)が記載されていると認定された。

 

(2)タイヤ業界の技術常識について

 タイヤ業界では、リブパターンとブロックパターンを含む4種類のトレッドパターンがタイヤに刻まれた模様のカテゴリ(種別)として慣用されている。

 ここで、本願及び甲1文献(引用文献 特開2011-207283号公報)には、タイヤのトレッドパターンがリブパターンであることは明記されていない。

 また、甲4文献(引用文献 特開2011-207283号公報)には、タイヤのトレッドパターンがブロックパターンであることが記載されている。

『リブパターン』:直線またはジグザグの連続した溝をもつトレッドパターン。

引用元:住友ゴム工業株式会社 『タイヤ関連用語集』

https://tyre.dunlop.co.jp/tyre/products/dictionary/rib.html

『ブロックパターン』:独立したブロック(塊)で形成したトレッドパターン。

引用元:住友ゴム工業株式会社 『タイヤ関連用語集』https://tyre.dunlop.co.jp/tyre/products/dictionary/block.html

 

<本件発明の進歩性が認められた要因:副引用発明の認定について>

 本件発明の進歩性が認められた要因は、甲4に記載の発明に関し、「上記イ①ないし③の技術的事項は,甲4に記載された課題を解決するための構成として不可分のものであり,これらの構成全てを備えることにより,(中略)甲4記載の発明の課題を解決したものと理解することが自然である。したがって,甲4技術Aから,ブロックパターンを前提とした技術であることを捨象し,さらに,溝面積比率に係る技術的事項のみを抜き出して,甲4に甲4技術が開示されていると認めることはできない。」と判断された点にあると考える。

 

<実務上の指針:副引用発明の認定について>

 拒絶理由が通知された際には、副引例に記載の発明の解決しようとする課題、及び該課題の解決のために必須となる構成の把握が重要である。

 副引例に記載の発明の解決しようとする課題の把握にあたり、実施例及び明細書全体から読み取れるカテゴリ(種別、パターン)に注視することが有効な手段であると考える。

以上

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