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    2013.11.15カテゴリー: 判例航海日誌

    平成24年(行ケ)10405号 審決取消事件

    2013年11月1日

    みなとみらい特許事務所

    弁理士 辻田 朋子

     技術部 村松 大輔

     

    1.事件の概要

    (1)特許庁における手続きの経緯

    平成17年7月28日 特許出願(特願2005-218755号)

    平成21年8月26日 拒絶査定(引用例1~3、29条2項)

    同年11月11日 拒絶査定不服審判請求(不服2009-21966号事件)

             同時に補正

    平成24年4月25日 拒絶理由通知(先願と同一、39条1項違反)

    平成24年6月25日 請求項の記載を以下のように補正

     

    【請求項1】(補正前発明1)

    少なくとも,ジクロロイソシアヌール酸ナトリウム,次亜塩素酸ナトリウム,高度サラシ粉,クロラミンTの群より選ばれ,好ましくは次亜塩素酸ナトリウムの水溶液を,炭酸水或は炭酸ガスで希釈した後に,少なくとも,クエン酸,リンゴ酸,酒石酸,マレイン酸,コハク酸,シュウ酸,グリコール酸,酢酸,塩酸,硫酸,硝酸,硫酸水素ナトリウム,スルファミン酸,リン酸より選ばれる少なくとも一種の酸性物質,好ましくは希塩酸水溶液を溶解してpH調整を行うようにしたことを特徴とする希釈用濃縮殺菌消毒液の製造方法。

    【請求項2】(補正前発明2)

    前記炭酸水の遊離炭酸濃度は100ppm~3000ppmであることを特徴とする請求項1に記載の希釈用濃縮殺菌消毒液の製造方法。

     

    24年7月18日 本件拒絶理由通知

    (ア) 拒絶の理由1

     補正前発明1のうちで,塩素剤として「次亜塩素酸ナトリウム」,炭酸源として「炭酸ガス」,酸性物質として「酢酸,塩酸,硫酸より選ばれる少なくとも一種の酸性物質又は希塩酸水溶液」を選択する態様と,引用発明との間に差異はない。

     したがって,補正前発明1は,刊行物1に記載された発明(引用発明)であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。

    (イ) 拒絶の理由2

     補正前発明1と引用発明とは,①塩素剤の種類,②炭酸源が補正前発明1は「炭酸水」であるのに対し,引用発明では「炭酸ガス」である点,③酸性物質の種類,の点で相違するが,いずれも当業者が容易に想到できたものである。また,補正前発明2と引用発明とは,上記①ないし③に加え,④炭酸水の遊離炭酸濃度が,補正前発明2では「100ppm~3000ppm」であるのに対し,引用発明ではそのような特定がされていない点(相違点4)で相違するが,いずれも当業者が容易に想到できたものである。

     よって,補正前発明1及び補正前発明2は,刊行物1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

    (ウ) 拒絶の理由3

     本願は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,特許法36条6項に規定する要件を満たしていない。

     

    平成24年8月27日 本件補正(以下の請求項の記載に補正)

     

    【請求項1】

    ジクロロイソシアヌール酸ナトリウム,次亜塩素酸ナトリウム,高度サラシ

    粉,クロラミンTの群より選ばれた塩素剤の水溶液に,炭酸水或は炭酸ガスを混入した後に,クエン酸,リンゴ酸,酒石酸,マレイン酸,コハク酸,シュウ酸,グリコール酸,酢酸,塩酸,硫酸,硝酸,硫酸水素ナトリウム,スルファミン酸,リン酸より選ばれる少なくとも一種の酸性物質の水溶液を溶解してpH調整を行うようにし,かつ,前記炭酸水の遊離炭酸濃度は100ppm~3000ppmであることを特徴とする希釈用濃縮殺菌消毒液の製造方法。

     

    同年10月9日 拒絶審決確定

     

    (2)本件審決の理由の要旨

    る国際公開第2004/098657号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)と,以下の点で一致し,相違点を有しないから,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないというものである。「次亜塩素酸ナトリウムの水溶液に,炭酸ガスを混入した後に,塩酸の水溶液を溶解してpH調整を行うようにした希釈用濃縮殺菌消毒液の製造方法」。

     

    2.争点

    審決が特許法159条2項の準用する同法50条に違反してされたものか否か。

     

    3.裁判所の判断

    の本願についての手続の経過に照らすと,本願発明が引用発明と一致し相違点を有しないから新規性を欠如するとの拒絶理由は,拒絶査定において示されていないから,特許法159条2項の「査定の理由と異なる拒絶の理由」に当たる。そして,上記(1)オの本件補正の内容に照らすと,本願発明は,実質的には補正前発明2に当たるところ,補正前発明2については,本件拒絶理由通知においては進歩性を欠如するとの拒絶理由が通知されていたものの,補正前発明1とは異なり,引用発明と差異はないから新規性を欠如するとの拒絶理由が通知されたとは認められない。

     この点,本願発明の請求項の記載に照らして,遊離炭酸濃度の特定事項が炭酸源として炭酸水を用いる場合のみに係ることが一義的に明確であると解されることは前記1のとおりであるから,補正前発明1について新規性を欠くとする本件拒絶理由通知によって,炭酸源として炭酸ガスを選択する態様については引用発明と同一であるとの拒絶理由が,実質的には通知されていたと評価する余地もないわけではない。

    しかしながら,本件拒絶理由通知は,あえて補正前発明1についてのみ,引用発明と差異がないとの拒絶理由を通知し,補正前発明2については,相違点4等が存在することを理由に,進歩性を欠くとの拒絶理由のみを通知したにすぎないから,出願人である原告において,本件拒絶理由通知によって,補正前発明2のうち炭酸源として炭酸ガスを選択する態様については引用発明と同一であるとの拒絶理由が示されていることを認識することは困難であったと考えられる。

     そうすると,審決は,かかる拒絶の理由を通知することなく行った点で,特許法159条1項の準用する同法50条の規定に違反したものであるといわざるを得ず,出願人の防御権を保障し,手続の適正を確保するという観点からすれば,かかる手続違背は,審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。

     

    4.考察

     本件は拒絶査定不服審判における特159条2項で読み替えて準用する特許法第50条に規定する手続に違反して審決がなされたことが、裁判所において認められた事例である。

     同条が争点となった裁判例としては、プリント配線基板事件判決(平成 12 年(行ケ)376 号)やシート切断装置事件判決(昭和 55 年行ケ 365 号)が挙げられる。プリント配線基板事件判決は、(ⅰ)周知技術を拒絶理由に追加することが新たな拒絶理由を構成することになるのか、シート切断装置事件判決は、(ⅱ)周知技術の根拠となる文献を拒絶理由通知で明示していない場合に後で明示することが新たな拒絶理由を構成することになるのか、という点について説示されたものである。

     (ⅰ)については、引用例に基づく想到容易性の判断は、当業者の技術水準を前提に行うものであるから、同一引用例に基づく進歩性の判断という点において、新たな拒絶理由を構成するものではないと判断している。

     また、(ⅱ)については、具体的な周知例が特許庁の審決では示されず訴訟で初めて示されたケースで、周知技術というのは、一々例を挙げるまでもなく当業者にとって周知であるということであるから、審決が周知であることの例を示していないことだけで審決を違法とすることはできないと判断している。

     これらの判決をふまえると、拒絶査定不服審判において通知されなかった拒絶理由が、単に周知技術を具体的に示したものであるに過ぎない場合には、同条の手続き違背を取消理由として審決取り消しを求めたとしても、認められる見込みは低いであろうと思われる。

     こうした過去の判例に基づいて本件を見ると、本件において原告が主張している「通知されるべきであった拒絶理由(29条1項3号)」は、技術常識といえる範疇に無い事項に係る拒絶理由であったため、手続違背が認められたのであろうと考えられる。

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