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  • 平成24年(行ケ)第10400号 審決取消請求事件

    2014.07.18カテゴリー:

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    判例航海日誌

    平成26年7月18日

    みなとみらい特許事務所

    弁理士 村松 大輔

     

    平成24年(行ケ)第10400号 審決取消請求事件

     

    1.事件の概要

    ・特許庁における手続の経緯等

    平成5年11月22日       出願 (発明の名称「筋力トレーニング方法」)

    平成9年7月4日              設定登録(特許第2670421号)

    平成23年12月7日       無効審判請求

    平成24年5月7日           訂正請求

    同年10月17日              本件訂正を認める,審判請求は成り立たない旨の審決

    平成25年8月28日       知財高裁 請求棄却(本件判決)

    平成26年2月18日       最高裁 請求棄却

     

    ・本件特許発明

    【請求項1】

    筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ,もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって,筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法。

    【請求項2】

    緊締具が,筋肉に流れる血流を阻害する締め付け力を付与するものであり,締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えた帯状体又は紐状体とされた請求項1記載の筋力トレーニング方法。

    【請求項3】

    緊締具が,更に締め付け力の表示手段が接続されたものとされ,少なくとも皮膚に接触する側に皮膚を保護するための素材を配したものとされた請求項2記載の筋力トレーニング方法。

     

    2.審決の概要

    本件発明は,医療行為方法,業として利用できない発明,実際上明らかに実施できない発明のいずれにも該当しないから,特許法29条1項柱書にいう「産業上利用することができる発明」に該当する。(記載不備、新規性・進歩性については省略)

     

    3.争点

    産業上利用可能性について

     

    4.裁判所の判断

    (1) 産業上利用可能性について

     本件発明は,特定的に増強しようとする目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより,疲労を効率的に発生させて,目的筋肉をより特定的に増強できるとともに関節や筋肉の損傷がより少なくて済み,さらにトレーニング期間を短縮できる筋力トレーニング方法を提供するというものであって,本件発明は,いわゆるフィットネス,スポーツジム等の筋力トレーニングに関連する産業において利用できる技術を開示しているといえる。そして,本件明細書中には,本件発明を医療方法として用いることができることについては何ら言及されていないことを考慮すれば,本件発明が,「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)であることを否定する理由はない。

    (2) 医療行為方法について

    原告は,被告が本件発明を背景にして医療行為を行っている等と縷々主張する。本件発明が,筋力の減退を伴う各種疾病の治療方法として用いられており(甲17,29等),被告やその関係者が本件発明を治療方法あるいは医業類似行為にも用いることが可能であることを積極的に喧伝していたこと(甲63,67,68等)が認められる。しかし,本件発明が治療方法あるいは医業類似行為に用いることが可能であったとしても,本件発明が「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)であることを否定する根拠にはならない

     

    5.考察

     本件判決では、請求項に係る発明が医療行為に応用が可能である場合に、当該発明が医療行為に該当するのか否かについて争われた。この点について知財高裁は、発明が医療行為に応用可能であるからといって、当該発明の産業上利用可能性が否定される根拠にはならないとの判断を下した。

     裁判所のかかる判断は議論をするまでもなく妥当なものであろう(医療行為に応用可能であるからといってその産業上利用可能性が否定されるのであれば、医療機器や医薬品に係る特許発明は無効理由を有することになってしまう)。

     なお、本件判決の背景を調べると、被告が多数の特許権、商標権を活用したビジネスモデルを展開していることがわかる。そして、被告の有している権利の及ぶ範囲を正しく理解していない人が相当数いることがわかる。弁理士、弁護士はそのような人々にどのような行為が制限されるのか、また、どのような行為が権利の範囲外になるのか、適切なアドバイスをしなければならない。

     

    以上

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