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  • 平成29年(ワ)第35663号 特許権侵害差止請求事件

    2019.3.11カテゴリー: 判例航海日誌ブログ

    判例航海日誌

    平成31年3月5日

    技術部 T.S

    「エクオール含有大豆胚軸発酵物,及びその製造方法事件」

    平成29年(ワ)第35663号 特許権侵害差止請求事件

     

    <1> 事件の概要

     本件は,発明の名称を「エクオール含有大豆胚軸発酵物,及びその製造方法」とする特許権を有する原告が,被告による大豆胚芽抽出発酵物含有食品の生産・販売等が原告の上記特許権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,上記製品の生産・譲渡等の差止め及び上記製品の廃棄を求める事案である。

     

    (1)原告の特許権

    原告は,次の特許権(以下,「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」といい,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)を有している。
    ア 特許番号 特許第5946489号
    イ 発明の名称 エクオール含有大豆胚軸発酵物,及びその製造方法
    ウ 出願日 平成26年4月15日
    エ 優先日 平成17年12月6日,平成18年10月11日
    オ 優先権主張国 日本

    カ 登録日 平成28年6月10日

    (2)本件特許の出願経過
    本件特許に係る出願(特願2014-083507号)は,特願2007-549133号(丙3の1。以下「親出願」という。)の一部を分割した特願2012-082486号の一部を分割した特願2012-149675号の一部を分割したものである。
    そして,親出願については,特願2005352337(平成17年12月6日出願,丙16)及び特願2006277934(平成18年10月11日出願,丙17)を基礎出願とする国内優先権主張がある。

     

    <2> 事件の内容

    <本件発明>

    原告は,平成30年10月15日付けで,本件特許の請求項1及び3の特許請求の範囲について,訂正審判請求を行った(以下「本件訂正審判請求」という。)。訂正後の請求項1及び3の記載は,次のとおりである。(甲31の1~2)

     

    (1)本件発明
    (1-1)請求項1の記載

    オルニチン及びエクオールを含有する大豆胚軸発酵物であって,

    発酵生成物であるオルニチンを前記大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上含有し,

    発酵生成物であるエクオールを前記大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上含有する,

    該大豆胚軸発酵物。

     

    (1-2)本件発明1の構成要件

     本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件1A」のようにいう。)。
    A    オルニチン及び
    B    エクオールを含有する
    C    大豆胚軸発酵物。

     

    ※下線部は、筆者による追記

     

    (2)本件発明
    (2-1)請求項3の記載

    オルニチン及びエクオールを含有する大豆胚軸発酵物であって,

    発酵生成物であるオルニチンを前記大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上含有し,

    発酵生成物であるエクオールを前記大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上含有し,

    前記大豆胚軸発酵物中のゲニステイン類の総和の含有比率が前記大豆胚軸発酵物中のイソフラボンの総量当たり12重量%以下である,

    前記大豆胚軸発酵物を配合した食品,特定保健用食品,栄養補助食品,機能性食品,又は病者用食品。

     

    (2-2)本件発明3の構成要件

     本件発明3を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件3A」のようにいう。)。
    A    請求項1又は2に記載の大豆胚軸発酵物を配合した
    B    食品,特定保健用食品,栄養補助食品,機能性食品,病者用食品,化粧品,又は医薬品。

     

    <当裁判所の判断(下線部は、筆者による追記>

     構成要件1C及び3Aにおける「大豆胚軸発酵物」とは,大豆胚軸自体の発酵物をいい,大豆胚軸抽出物の発酵物を含まないと解すべきところ,被告製品は,大豆胚軸自体の発酵物を含有しないから,上記各構成要件を充足しないと判断する。

     

    (1)本件明細書の記載

    本件明細書には,以下の記載がある(甲2)。

     

    ・・・中略・・・

     

    イ 【背景技術】

     

    ・・・中略・・・

     

    【0006】しかしながら,単に,上記のダイゼイン類を含む原料に対して,エクオール産生菌を用いて発酵処理しても,得られる発酵物中のエクオール量は十分ではなく,その発酵物をそのまま摂取しても,エクオールの作用に基づく所望の有用効果を十分には望めないという問題点があった。

    【0007】一方,大豆胚軸部分には,大豆加工食品として利用されている子葉部分に比べて,イソフラボンやサポニン等の有用成分が高い割合で含まれていることが知られており,その抽出物については種々の用途が開発されている(例えば,特許文献3)。しかしながら,大豆胚軸抽出物は,それ自体コストが高いという欠点がある

    【0008】一方,大豆胚軸自体については,特有の苦味があるため, 15 それ自体をそのまま利用することは敬遠される傾向があり,大豆の胚軸の 多くは廃棄されているのが現状である。また,大豆胚軸には,大豆の子葉 部分と同様に,アレルゲン物質が含まれているため,大豆アレルギーを持 つ人にとって,大豆胚軸を摂取乃至投与することができなかった。そのた め,大豆胚軸を有効利用するには,大豆胚軸自体に更に付加価値を備えさ 20 せることにより,その有用性を高めることが重要である。

    ・・・中略・・・

     

     

    (2)本件明細書の記載に基づく構成要件1-C及び3-Aの解釈

    ア 上記記載によれば,

    (1)本件各発明の課題として,大豆胚軸抽出物は,それ自体コストが高いなどの理由から,エクオールを工業的に製造する上で,原料として使用できないのが現状であったこと,一方,大豆胚軸自体については,特有の苦味があるため,それ自体をそのまま利用することは敬遠される傾向があり,大豆の胚軸の多くは廃棄されているのが現状であったなどのため,大豆胚軸を有効利用するには,大豆胚軸自体の有用性を高めることが重要であったことが挙げられており,また,

    (2)本件各発明の効果としては,本件各発明の大豆胚軸発酵物は,エクオールと共に,エクオール以外のイソフラボンやサポニン等の大豆胚軸に由来する有用成分をも含有しているので,食品,医薬品,化粧料等の分野で有用であること,本件各発明の大豆胚軸発酵物は,大豆の食品加工時に廃棄されていた大豆胚軸を原料としており,資源の有効利用という点でも産業上の利用価値が高いこと等が挙げられている。

     

    イ このように,本件明細書の記載によれば,本件各発明は,従来利用されずに廃棄されていた大豆胚軸自体を有効利用できるようにし,大豆胚軸に由来する有用成分を含有して食品等に有用な大豆胚軸発酵物に係るものであることが明らかであるから,そうである以上,本件各発明の構成要件1C及び3Aにおける「大豆胚軸発酵物」とは,大豆胚軸自体の発酵物をいい,大豆胚軸抽出物の発酵物を含まないと解すべきである。

     

    ウ これに対し,原告は,本件明細書の段落【0007】及び【0008】の記載は,従来技術の記載に過ぎず,本件各発明は,大豆胚軸に豊富に含まれるダイゼイン類から多量のエクオールが生成されるとともに,栄養成分として発酵原料に含まれるアルギニンを,アルギニン変換能を有するエクオール産生菌によってオルニチンに変換させることで,従来技術において大豆胚軸抽出物に存在したコスト高という欠点を克服すると共に,発酵物をより有用なものにしたものであり,本件各発明は,むしろ発酵原料に栄養素を含めることを積極的に必要としている旨主張する。原告の主張の趣旨は必ずしも判然としないところもあるが,いずれにしても,上記説示のとおり,本件明細書の記載によれば,本件各発明は,従来利用されずに廃棄されていた大豆胚軸自体を有効利用できるようにし,大豆胚軸に由来する有用成分を含有して食品等に有用な大豆胚軸発酵物に係るものであることが明らかであるから,原告の上記主張は,明細書の記載に反し,採用できない。

     

     

    (3)本件特許の親出願の出願経過について
    上記の解釈は,本件特許の親出願の出願経過からも裏付けられる。
    ア 親出願の審査の過程で,特許庁は,国際公開2005/000042号(丙3の2)を引用文献1として,平成23年11月9日を起案日とする拒絶理由通知をした(丙3の3)。そこには,以下の記載がある。「引用文献1の請求項9には,ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質からなる群から選ばれる少なくとも1種に,ダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を作用させることにより,エクオールを製造することが記載され,請求項10には,乳酸菌がラクトコッカス・ガルビエであることが記載されている。また,第9頁3741行には,ダイゼイン類含有物質として大豆胚軸が記載されている。
    してみれば,引用文献1の記載に基づいて,ダイゼイン類含有物質である大豆胚軸に上記ラクトコッカス・ガルビエを作用させることにより,エクオール含量を高めた大豆胚軸発酵物を製造することは,当業者が容易になしうることである。」
    イ これに対し,出願人は平成23年11月29日付意見書(丙3の4)において,以下のとおり主張した。
    「審査官殿がご指摘の通り,引用文献1には,ダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス・ガルビエをダイゼイン類及びダイゼイン類含有物質からなる群から選ばれる少なくとも1種に作用させることによって,エクオールを産生すること(請求項9及び10),及び,ダイゼイン含有物質として大豆胚軸が記載されています。
    しかしながら,引用文献1には,ダイゼイン類含有物質として,大豆胚軸以外にも,大豆イソフラボン,葛,葛根,レッドクローブ,アルファルファ,並びにこれら植物の誘導体及び加工品(例えば,大豆粉,煮大豆,豆腐,油揚げ,豆乳),これらの発酵調理物(例えば,納豆,醤油,味噌,テンペ,発酵大豆飲料)等多数の具体例が示されています。また,引用文献1の実施例において,実際にエクオール産生能を有するラクトコッカス・ガルビエを用いた発酵の原料として使用されているものは,豆乳,牛乳及びスキムミルクだけであります。そして,以下にご説明する事情を考慮しますと,エクオール産生能を有するラクトコッカス・ガルビエを用いたエクオールの製造において,その発酵原料として大豆胚軸を選択することには阻害要因が存在します
    即ち,本願明細書の第0028段落並びに表1及び表2の記載から明らかなように,大豆胚軸にはダイゼイン類だけでなく,ゲニスチン,マロニルゲニスチン,アセチルゲニスチン,ゲニステイン,ジハイドロゲニステイン等のゲニステイン類,グリシチン,マロニルグリシチン,アセチルグリシチン,グリシテイン,ジハイドログリシテイン等のグリシテイン類等の多くのイソフラボンやサポニンが含まれています。そして,これら大豆胚軸に含まれる成分には,微生物の生育や微生物を用いた発酵(ダイゼインのエクオールへの変換)を阻害する作用があることが本願の優先日前から知られています

     

    ・・・中略・・・

     

    ウ 要するに,親出願の出願経過における原告(出願人)の上記主張は,ダイゼイン類含有物質としては,大豆胚軸以外にも,大豆イソフラボンなどが存在するところ,「大豆胚軸にはダイゼイン類だけでなく,ゲニスチン,マロニルゲニスチン,アセチルゲニスチン,ゲニステイン,ジハイドロゲニステイン等のゲニステイン類,グリシチン,マロニルグリシチン,アセチルグリシチン,グリシテイン,ジハイドログリシテイン等のグリシテイン類等の多くのイソフラボンやサポニンが含まれています。そして,これら大豆胚軸に含まれる成分には,微生物の生育や微生物を用いた発酵(ダイゼインのエクオールへの変換)を阻害する作用があることが本願の優先日前から知られています。」として,「エクオール産生能を有するラクトコッカス・ガルビエを用いたエクオールの製造において,その発酵原料として大豆胚軸を選択することには阻害要因が存在します。」とするものであり,ここでは,原告は,明らかに,「大豆胚軸」を「大豆胚軸の抽出物(イソフラボン等)」と異なる「発酵を阻害する成分が含まれる大豆胚軸自体」であると主張していると認められる。
    本件特許は親出願の分割出願に係るものであるから,本件発明における「大豆胚軸」も親出願と同様に理解されるべきところ,親出願の出願経過における原告の上記主張の内容は,上記(2)の説示と同内容であり,これを裏付けるものということができる。
    エ これに対し,原告は,親出願の出願経過における上記主張は,(ダイゼイン類以外の)イソフラボンや,サポニンの存在を,大豆胚軸を選択する阻害要因として主張したのであって,大豆イソフラボンと大豆胚軸を殊更に区別して,後者のみに阻害要因があると主張したのではないことは明らかであり,まして,大豆胚軸の抽出物を発酵させた場合が「大豆胚軸発酵物」から除外されるということはどこにも述べられていないと主張する。しかし,上記説示のとおり,親出願の出願経過における原告の意見書における前記主張は,明らかに,「大豆胚軸」を「大豆胚軸の抽出物(イソフラボン等)」と異なる「発酵を阻害する成分が含まれる大豆胚軸自体」であるとするものであるから,これに反する原告の上記主張は採用できない。

     

    (4)被告製品について

    ・・・省略・・・

    (5)小括
    以上のとおり,被告製品は本件発明の構成要件1C及び3Aを充足しない。これに対し,原告はるる主張するが,いずれも採用できない。

     

     

    <3> 実務上の指針

    (1-1)明細書の作成、中間応答における、実務上の指針

     背景技術・課題を記載する際や中間応答の際に、語の定義が縮減解釈されてしまわないよう、注意を払う必要がある。

     

    (1-2)受任時における、実務上の指針

     出願人が、「どのような相手の実施行為に対してまで、権利行使を希望するか」を確認しつつ、出願書類の作成、中間応答を行うことが肝要である。

     

     なお、本件は控訴される可能性が高く、今後の経過に注視する必要がある。

     

    以上

     

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