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    2013.5.20カテゴリー: 判例航海日誌

     

    平成24年(行ケ)第10299号 審決取消請求事件

     

    1.事件の概要

    本件は,原告が、被告「液体調味料の製造方法」に係る発明についての特許に対する原告の特許無効審判の請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした審決には取消事由があると主張して、その取消しを求める事案である。

     

    (1)特許庁における手続の経緯

    被告は、平成18年2月27日、発明の名称を「液体調味料の製造方法」とする特許出願をし、平成23年6月24日、設定の登録を受けた。

    原告は,平成23年11月14日、本件特許に係る発明の全てである請求項

    1ないし9に係る発明について特許無効審判を請求した。

    被告は、平成24年6月21日,本件特許に係る請求項1、2及び6について訂正を請求した。

    特許庁は、平成24年7月13日、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。

     

    (2)訂正の内容

    被告は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び2において「血圧降下作用を有する物質」と記載されていたものを、いずれも「コーヒー豆抽出物,及びアンジオテンシン変換阻害活性を有するペプチドから選ばれる少なくとも1種の血圧降下作用を有する物質」とする訂正を行った。

     また、被告は訂正前の請求項6において「血圧降下作用を有する物質がコーヒー豆抽出物又はγ-アミノ酪酸である」と記載されていたものを、「血圧降下作用を有する物質がコーヒー豆抽出物である」とする訂正を行った。

     

    (3)本件審決の理由の要旨

    本件訂正は、平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下「法」という。)134条の2第1項ただし書及び同条5項において準用する法126条3項、4項の規定に適合するので適法である。

    本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ充分に記載したものであり、特許法36条4項1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)を満たす。

    本件発明は、本件優先日前の技術常識に照らせば、実質、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲のものであり、同条6項1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)を満たす

    (4)取消事由

    訂正要件の認定の誤り(取消事由1)

    実施可能要件に係る認定判断の誤り(取消事由2)

    サポート要件に係る認定判断の誤り(取消事由3)

     

    (5)本判決における結論

    原告主張の取消事由3には理由があり、よって本件審決のうち、請求項1ないし5及び9に係る部分を何れも取り消す。

     

    2.本訴訟における争点

     本件発明は、「コーヒー豆抽出物,及びアンジオテンシン変換阻害活性を有するペプチドから選ばれる少なくとも1種の血圧降下作用を有する物質」を含む液体調味料の製造方法に係る方法の発明(請求項1~8)と、その方法で製造された液体調味料に係る物の発明(請求項9)である。

     ここで、明細書には血圧降下作用を有する物質を含む液体調味料の製造方法について記載されていたが、アンジオテンシン変換阻害活性を有するペプチド(ACE阻害ペプチド)を含む液体調味料については、その実施例が記載されていなかった。

     本訴訟における争点は、実施例が記載されていない発明が特許請求の範囲に記載されているときに、本件特許に係る発明の詳細な説明及び特許請求の範囲が、それぞれ実施可能要件及びサポート要件を満たすのか否かという点にある。

     

    3.裁判所の判断

    (1)実施可能要件について

     特許法36条4項1号は、発明の詳細な説明の記載は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したもの」でなければならないと規定している。方法の発明については、明細書にその発明の使用を可能とする具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその方法を使用することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。また、物の発明については、明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。

    ここで、特許請求の範囲に記載されている「生醤油」及び「ACE阻害ペプチド」は、いずれも本件明細書に具体的にその意義、製造方法又は入手方法が記載されている。また、ACE阻害ペプチドを含む液体調味料の製造方法については、明細書に具体的手法が記載されている。

    したがって、製造方法に係る発明の使用を可能とする具体的な記載があり、かつ、当業者がACE阻害ペプチドを含む液体調味料を製造することができる以上、本件発明は、実施可能要件を満たす。

     

    (2)サポート要件について

     特許法36条6項1号には,特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したもの」でなければならない旨が規定されている。そして、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、あるいは、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

     ここで、本発明の課題は、「風味の一体感付与を図り、メニューによる風味の振れが少なくて継続的な摂取が容易な、血圧降下作用等の薬理作用を高いレベルで発揮する液体調味料及びその簡単な製造方法を実現すること」である。

    しかし、本件明細書の発明の詳細な説明には、ACE阻害ペプチドを本件発明における血圧降下作用を有する物質として液体調味料に混同して加熱処理をした場合の、上記課題が解決されたことを示す記載はなく、また、このことを示す技術常識も見当たらない。

    したがって、特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものではなく、また、当業者が本件出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいえないから、サポート要件を満たすものとはいえない。

     

    4.考察

     本判決は、特許法36条4項1号(実施可能要件)及び特許法36条6項1号(サポート要件)の関係性を端的に示しているものであるといえる。

     実施可能要件は、当業者が請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に、発明の詳細な説明を記載することを要求している。つまり、当業者が、方法の発明であればその方法を使用でき、物の発明であればその物を製造し使用することができるように記載してさえすれば実施可能要件は充足する。かかる要件は、その発明が課題を解決できるか否かという点については言及していない。

     一方、サポート要件は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを要求している。そして、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲に記載の発明が、発明の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して行われる。すなわち、サポート要件は、実施可能要件では言及されなかった発明の課題解決についても問題としている。

     上述したように、実施可能要件とサポート要件はその要求するところが異なり、お互い全く別物の規定である。しかし、これら2つの規定が組み合わさることにより、当業者が特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載から、「課題を解決」できる発明を「実施」できるような仕組みとなっている。つまり、新たな発明の開示の代償として排他的独占権を付与するということが特許法の趣旨であるところ、実施可能要件とサポート要件はセットで「発明の開示」を担保する規定となっているのである。

     発明の詳細な説明及び特許請求の範囲を記載するときは、実施可能要件とサポート要件の役割の違いを明確に認識し、適正な「発明の開示」をするように心がけるべきである。

     

    みなとみらい特許事務所

    弁理士 辻田朋子

    技術部 村松大輔

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