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    2013.5.20カテゴリー: 判例航海日誌

     

    平成24年(行ケ)第10241号 審決取消請求事件

     

    1.事件の概要

    本件は,発明の名称を「医療用ゴム栓組成物」とする特願2005-238059(特開2007-50138)について進歩性がないとした拒絶審決の取消しを求めた事案である。

     

    (1)特許庁における手続の経緯

    平成17年8月19日 特許出願

    平成22年6月10日 補正

    平成23年3月14日 審判請求

    平成23年3月14日 補正

    平成24年5月22日 拒絶審決

     

    (2)審決の要旨

     本願発明は、引用発明(刊行物1、特開2001-258991号公報)に記載された発明に対して進歩性がない、として本願発明の特許性を否定した。

     

    (2-1)本願発明

     質量平均分子量が30万~50万であるスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体100質量部に対して,

     軟化剤160~200質量部,

     ポリプロピレン15~40質量部を配合した組成物であって,

     該組成物のJIS K 6253Aに規定する硬さが30~45であることを特徴とする

     医療用ゴム栓組成物。(下線は補正箇所)

     

    (2-2)引用発明

     重量平均分子量が20万~40万であるスチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体100部に対して,

     パラフィン系オイル50~300部,

     ポリオレフィン樹脂10~50部を配合した組成物であって,

     該組成物のJIS(DURO)のA硬度が20~70である

     医療用薬液用瓶若しくは袋の針刺し止栓の針刺部分。

     

    (2-3)相違点の認定

    • スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体の分子量
    • 本発明は、ポリオレフィンをポリプロピレンに限定。
    • 軟化剤とポリオレフィンの配合量
    • 硬さ

     

    (2-4)相違点に対する判断

    • 設計事項、臨界的意義なし
    • 刊行物1にポリプロピレンの配合について示唆有り、適宜選択可能
    • 設計事項、臨界的意義なし
    • 設計事項、臨界的意義なし

     

    → 従って、進歩性なし。

     

    (3)取消事由

    ●引用発明の認定の誤り

    ●容易想到性の判断の誤り

     

    (4)本判決における結論

    審決における引用発明の認定には誤りがあり、よって本発明の容易想到性についても当然に判断の誤りがあるため、審決を取り消す。

     

    2.本訴訟における争点

     引用発明の認定が適切なものであったか、が争点となった。

     

    3.裁判所の判断(下線は当所が付加)

     

    3 補正発明の容易想到性について

     (1) 刊行物1から認定すべき発明について

     刊行物1に記載された発明の構成は,前記のとおり,針刺部分を射出成形金型のキャビティ内に隙間を有して載置し,止栓本体の材料を射出成形金型と針刺部分とで区画された隙間を除いたキャビティに射出して成形した針刺し止栓であるところ,この針刺し止栓の針刺部分が補正発明に係る医療用ゴム栓組成物に相当する。そして,補正発明は,医療用ゴム栓組成物について,その組成と組成物の硬さを発明特定事項とするものであるから,刊行物1において補正発明と対比すべき発明は,刊行物1に記載された技術的事項から,針刺部分の組成及びその硬さについて抽出した「重量平均分子量で15万以上のスチレン・共役ジェンブロック共重合体の水素添加物であって前記共役ジェンがイソプレン及びブタジエンから選択される1種以上であるベースポリマー100部に対して,パラフィン系オイルを50~300部,及びポリオレフィン樹脂を10~50部配合した組成物であって,当該組成物のJIS(DURO)のA硬度が20~70である針刺し止栓の針刺部分組成物」となる。審決が認定した引用発明における「重量平均分子量が20万~40万であるスチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体」は,上記認定の構成「重量平均分子量で15万以上のスチレン・共役ジェンブロック共重合体の水素添加物であって前記共役ジェンがイソプレン及びブタジエンから選択される1種以上であるベースポリマー」に包含されるものではあるが,前記のとおり,刊行物1に記載された発明が十分な液漏れ性能等の確保といった目的を達成するためには,止栓本体の成形時に針刺部分を針の針刺方向に撓ませて成形されたものであることが必要と解されるのに対し,補正発明では針刺部分を撓ませることは前提とされていないという点で技術思想が異なるものであり,このような差違を考慮しないまま上記認定の構成に包含されるからといって,その中の特定の構成を引用発明として認定するのは相当ではない。原告主張の取消事由もこの趣旨をいうものと理解することができる。

     

    (2) 補正発明と刊行物1に記載の構成物の対比

     刊行物1に記載されているのは,医療用薬液を封入した薬液用瓶若しくは袋に使用する針刺し止栓(甲1の段落【0001】)の針刺部分組成物であり,そこにおける実施例では,スチレン系エラストマー,パラフィン系オイル,及びポリオレフィン樹脂のコンパウンドをエラストマー(弾性体)と称していることから,ベースポリマー,パラフィン系オイル,及びポリオレフィン樹脂を配合した組成物である針刺部分の材料は,ゴム状であると解される。そうすると,補正発明の医療用ゴム栓組成物に対比されるべき発明は,刊行物1における針刺し止栓の針刺部分組成物に相当する。

     そして,補正発明の医療用ゴム栓組成物は,質量平均分子量が30万~50万であるスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体をベースポリマーとする組成物であるのに対し,刊行物1における上記ベースポリマーは,重量平均分子量で15万以上のスチレン・共役ジェンブロック共重合体の水素添加物であって共役ジェンがイソプレン及びブタジエンから選択される1種以上のものであるから,両者は少なくともベースポリマーの成分で相違する部分がある。

     

    (3) 相違点についての判断

    前記のとおり,刊行物1に記載の針刺部分組成物は,当該組成物から得た針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形することが,液漏れのない針刺し止栓を得るために必要であるのに対し,補正発明の構成物は,ゴム栓組成物の成形物が針の針刺方向に撓ませて止栓本体と一体化して成形されていなくとも,特許請求の範囲で特定された組成及び硬さを有するものであれば,使用時に液漏れを生じないものとして発明されたものである。具体的には,本願明細書で実施例1ないし3及び比較例1ないし5として記載された8種のゴム栓組成物は,いずれも刊行物1において補正発明と対比すべき発明に係る針刺し止栓の針刺部分の組成及び硬さを満たすものであるところ,刊行物1の記載によれば,これら8種の組成物を使用して製造した針刺部分は,これを針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形する構成を伴うことにより,液漏れが生じない針刺し止栓を得ることができる。一方,本願明細書の記載によれば,これら8種の組成物の中で,実施例として記載の3種の組成物,ひいては特許請求の範囲に記載されたベースポリマーの種類及び分子量,軟化剤及びポリプロピレンの配合量,並びに硬さに特定された組成物のみが,針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形するという手法を用いなくとも,液漏れのない医療用ゴム栓を得ることができるというものである。そうすると,補正発明は,当裁判所が認定した刊行物1に記載の上記組成物におけるベースポリマーの種類及び分子量,軟化剤及びポリプロピレンの配合量,並びに組成物の硬さを特定の範囲に限定することにより,針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形するという手法を用いなくとも,液漏れのない医療用ゴム栓を得ることができる効果を見出したものということができる。そして,針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形することを液漏れのない針刺し止栓を得るために必要とする刊行物1記載の針刺部分組成物のベースポリマーの種類及び分子量,パラフィン系オイル及びポリオレフィンの配合量,並びに硬さの範囲の中から,針刺部分を針の針刺方向に撓ませることが不要な特定の組成を見出すという発想は,刊行物1の記載から見出すことができず,刊行物1に記載の事項と補正発明とでは前提とする技術的思想が異なるものである。すなわち,補正発明の構成は,前記の技術的課題からの発想に伴うものであり,そのような発想である技術的思想が上記のとおり刊行物1には記載も示唆もない以上,そのような発想と離れた組成物が刊行物1に記載されているとしても,そこに,補正発明の構成が容易想到であると認めるまでの発明としての構成が記載されているということはできない。

    審決は,補正発明の技術的課題と刊行物1に記載の技術的課題の対比を誤り,補正発明と対比すべき技術的思想がないのに刊行物1に記載の事項を漫然と抽出して補正発明と対比すべき引用発明として認定した誤りがあり,ひいては補正発明を刊行物1に記載の引用発明から容易に想到しうるものと誤って判断したものというべきである。

     

    4.考察

     引用発明の認定において、引用発明が本発明と共通する技術的課題を有しているか否かを対比しなければならないことを判示している点が、興味深い。

     組成や物性を数値で限定した数値限定発明についての進歩性の判断において、引用発明として、刊行物に記載された成分や数値範囲を適宜組み合わせて引用発明を認定しているケースがよく見られるので、その際の反論として、上記判示が有用であろう。

     

    みなとみらい特許事務所

    弁理士 辻田朋子

    技術部 村松大輔

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