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    2013.7.24カテゴリー: 判例航海日誌

    判例航海日誌

    2013年7月19日

    辻田・村松

    平成24年(行ケ)第10292号 審決取消請求事件

    1.事件の概要

     

    (1)特許庁における手続の経緯

    平成11年2月17日  特許出願(特願平11-38529)

    平成21年5月18日  拒絶査定

    平成21年8月18日  不服審判請求

    平成24年7月 4日  棄却審決

     

    (2)特許請求の範囲

    (a)n-ブチルアクリレートを50重量部以上,カルボキシル基を持つビニルモノマー及び/又は窒素含有ビニルモノマーの一種以上を1~5重量部,水酸基含有ビニルモノマー0.01~5重量部を必須成分として調製されるアクリル共重合体100重量部と,(b)粘着付与樹脂10~40重量部からなる粘着剤組成物を架橋した粘着剤を基材の少なくとも片面に設けてなる粘着テープであり,前記粘着剤の周波数1Hzにて測定されるtanδ のピークが5℃以下にあり,50℃での貯蔵弾性率G’が7.0×104~9.0×104(Pa),130℃でのtanδ が0.6~0.8であることを特徴とする粘着テープ。

     

    (3)本件審決の理由の要旨

    特許請求の範囲の記載がサポート要件(特36条6項1号)を満たしていないから、拒絶されるべきものである。

     

    (4)取消事由

    (取消事由1)サポート要件に係る判断の誤り

    (取消事由2)理由不備の違法

     

    (5)本判決における結論

     

    2.本訴訟における争点

     知財高裁大合議部判決のサポート要件判断の適用

     

     

    3.裁判所の判断

     実施例及び比較例のデータは、(中略)請求項1に記載された50℃での貯蔵弾性率G’及び130℃でのtanδの範囲の粘着剤は,優れた粘着特性を有すること及び請求項1に記載された粘弾特性を外れると、(中略)粘着特性が劣るものとなることを示すものであるといえる。

     しかしながら、実施例1ないし4は、いずれも、n-ブチルアクリレート(表1のBA)を90重量部程度有し、任意モノマーとして酢酸ビニル(同VAc)、カルボキシル基を持つビニルモノマーとしてアクリル酸(同AA)、窒素含有ビニルモノマーとしてNビニルピロリドン(同NVP)、水酸基含有ビニルモノマーとしてヒドロキシエチルアクリレート(同HEA)、粘着付与樹脂としてロジンエステル系樹脂A-100(荒川化学社製)及び重合ロジンエステル系樹脂D-135(荒川化学社製)を用いたものであって、請求項1に記載された組成の中のごく一部のものにすぎない。また,請求項1に記載された粘弾特性のパラメータであるtanδのピーク,50℃での貯蔵弾性率G’及び130℃でのtanδのそれぞれの値を制御するには何を行えばよいのかについて、本願明細書の発明の詳細な説明には,何らの記載もない。さらに,例えば,甲20(佐藤弘三「粘弾性と粘着物性」)の図6には,モノマー組成が同一のアクリル系粘着剤であっても分子量が大きいほど,50℃での貯蔵弾性率G’は小さく、130℃でのtanδが大きいことが記載され、また、図7には、架橋剤量が多いほど、50℃での貯蔵弾性率G’は大きく、130℃でのtanδは小さいことが記載されているように、粘着剤の技術常識によれば、請求項1に記載された粘弾特性の各パラメータの値は、アクリル系共重合体を構成するモノマーの種類(官能基の種類や側鎖の長さなど)や各種モノマーの配合比だけでなく、それらが重合してなるアクリル重合体の分子量、粘着付与樹脂の種類や配合量、架橋の程度など、様々な要因の影響を複合的に受けて変化するものである。そうすると、粘着剤が請求項1に記載された組成を満たしているとしても、それ以外の多数の要因を調整しなくては、請求項1に記載された粘弾特性を満たすようにならないことは明らかであり、実施例1ないし4という限られた具体例の記載があるとしても、請求項1に記載された組成及び粘弾特性を兼ね備えた粘着剤全体についての技術的裏付けが、発明の詳細な説明に記載されているということはできない。また,そうである以上,請求項1に記載された粘着剤は,発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき,当業者が本願発明の前記課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。

     以上によれば、本願発明に係る特許請求の記載の範囲の記載は、サポート要件に適合しないというべきである。

     

     

     

     

    4.考察

     化学分野においては複数のパラメータを用いて発明を特定するような特許請求の範囲の記載がよく見られる。そして、本件特許発明が属する粘着剤の技術分野においては、適切な接着性と剥がし易さという、両立することが困難な課題を解決しなければならないため、特に多くのパラメータで発明を特定することが多い。本件特許発明も、粘着剤の組成及び粘弾特性を示す数値など複数のパラメータにより発明を特定している。

     そして本判決では、粘着剤及び粘着テープの性質に影響を与える要因が多すぎ、明細書に記載された実施例のみでは、当業者が課題を解決できると認識できないと判断された。すなわち知財高裁大合議部判決のサポート要件判断手法に則って判断されたのである。

     特許事務所員においては、このような複数のパラメータが影響を与えるような発明の出願を依頼された場合には、依頼人(発明者等)に十分な量の実験データ出し、豊富な実施例をそろえることを要求するか、もしくは、現時点で有している実施例でカバーできる範囲で特許請求の範囲を記載することを心がけなければならない。

     

     なお、本訴訟において原告は、平成21年(行ケ)第10033号 審決取消請求事件の判例に基づいた主張をした。すなわち原告は『特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載とを対比して、前者の範囲が後者の範囲を超えているか否かを必要かつ合目的的な解釈手法によって判断すれば足りるというべきであり、特段の事情のない限り、発明の詳細な説明において、実施例等で記載・開示された技術的事項を形式的に理解すべきである。』との主張をした。

     しかし、当該判決においては『知財高裁大合議部判決の判示は,①「特許請求の範囲」が,複数のパラメータで特定された記載であり,その解釈が争点となっていること,②「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」の記載による開示内容と対比し,「発明の詳細な説明」に記載,開示された技術内容を超えているかどうかが争点とされた事案においてされたものである。これに対し,本件は,①「特許請求の範囲」が特異な形式で記載されたがために、その技術的範囲についての解釈に疑義があると審決において判断された事案ではなく、また,②「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比して、前者の範囲が後者の範囲を超えていると審決において判断された事案でもない。知財高裁大合議部判決と本件とは,上記各点において、その前提を異にする。』とも説示されている。

     ここで、本件特許請求の範囲の記載を鑑みるに、①粘着剤の組成及び粘弾性等の物性を示す複数のパラメータで記載されており、②「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」の記載に記載,開示された技術内容を超えているかどうかが争点となっていた。

     以上の理由から、本件特許請求の範囲の記載は、知財高裁大合議部判決のサポート要件判断手法に則って判断するべき事案であると判断されたため、原告の当該主張は認められなかったのだろう。

     

    みなとみらい特許事務所

    弁理士 辻田 朋子

    技術部 村松 大輔

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