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  • 平成26年(行ケ)第10204号 「経皮吸収製剤事件」

    2020.10.13カテゴリー: 判例航海日誌ブログ

    判例航海日誌

    技術部 E・K

     

    平成26年(行ケ)第10204号
    「経皮吸収製剤事件」

    1.事実関係
    <1>本件特許
    発明の名称:経皮吸収製剤、経皮吸収製剤保持シート、及び経皮吸収製剤保持用具
    特許番号 :特許第4913030号

    <2>手続の経緯
    平成24年5月2日   本件特許について無効審判請求(無効2012-800073)
    平成25年1月22日  訂正請求
    平成25年4月15日  請求不成立審決(訂正自体は認められる)
    平成25年11月27日 第1次審決取消判決がなされる。
    →特許庁において審理再開
    平成26年2月28日  訂正請求(本件訂正)
    平成26年8月12日  請求不成立審決(訂正自体は認められる。本件審決)

    本件は、上記本件審決の取り消しを求めて提起された。

    <3>本件訂正の内容
     本件訂正後の請求項1は、以下の通りである(下線部は訂正により追加された箇所)。

    【請求項1】
     水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基材と、該基材に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収される経皮吸収製剤であって、
     前記抗分子物質は、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、デキストラン、キトサン、プルラン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し、デキストランのみからなる物質は除く)であり、
     尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される、経皮吸収製剤(但し、目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基材に保持されている経皮吸収製剤、及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に格納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)

    <4>本件審決の概要
     訂正前の請求項1に「皮膚に挿入される、経皮吸収材」とあるのを、「皮膚に挿入される、経皮吸収製剤(但し、・・・及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に格納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)」とする訂正(以下、訂正事項3という)は、訂正前の請求項1に記載の「経皮吸収製剤」から「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に格納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書き1号に掲げる事項を目的とするものである。

    2.争点
     訂正事項3が特許請求の範囲の減縮に該当するとして本件訂正を認めた審決の判断が誤りであるか否か。

    3.裁判所の判断
     裁判所はまず、特許無効審判における訂正について、
    「訂正が特許請求の範囲の減縮(1号)を目的とするものということができるためには、訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じる前提として、訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要である。
    と判示した。

     次いで、具体的に本件訂正について、
    「本件発明は「経皮吸収製剤」という物の発明であるから、本件訂正発明も、「経皮吸収製剤」という物の発明として技術的に明確であることが必要であり、そのためには、訂正事項3によって除かれる「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に格納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」も、「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であること、言い換えれば、「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に格納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様が、経皮吸収製剤の形状、構造、組成、物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要というべきである。
    と述べた(以下、上記使用態様を「使用態様3」ともいう。)

     そして裁判所は、使用態様3によっても
    「経皮吸収製剤保持用具の構造が変われば、それに応じて経皮吸収製剤の形状や構造も変わり得るものである」し、また使用態様3によるか否かによって
    「経皮吸収製剤自体の組成や物性が決まるというものでもない」
    から、使用態様3は「経皮吸収製剤の形状、構造、組成、物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものとはいえ」ず、したがって、
    「訂正事項3によって除かれる「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に格納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」は、「経皮吸収材」という物として技術的に明確であるとはいえない。」
    として、
    「訂正事項3による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、技術的に明確であるとはいえないから、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない」と判断した。

    4.実務上の指針
     本判決においては、訂正により除かれる範囲が「経皮吸収製剤」という物として不明確であることにより、除いた後に残る「経皮吸収製剤」という物も不明確となったことから、当該訂正が特許請求の範囲を減縮するものなのか、拡張するものなのかについて判断することができず、結果として、特許請求の範囲を減縮する補正とは認められなかった。

     本事例において可能であったかは別として、製剤それ自体を限定するような要素(例えば、製剤の組成等)を特定することを検討することが、ひとつの選択肢として取り得る。また、除く範囲が明確であれば、用途によって特定できる場合もあると考えられる。

     他方、ある特定の構造体を除く場合は、引用文献に記載の表現と、本願発明の明細書で使用している用語とが一致していないので、除かれるものが不明確となる傾向にある。
     実施例に基づいて、特定の構造を有することを積極的に限定する選択肢も検討すべきであろう。


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