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平成25年(ウ)591号 行政処分取消義務付け等請求事件

判例航海日誌

2014年5月17日

みなとみらい特許事務所

弁理士 村松 大輔

 

平成25年(ウ)591号 行政処分取消義務付け等請求事件

 

1.事案の概要

 

平成17年10月18日            国際出願

平成22年7月20日                拒絶理由通知

平成23年1月20日          手続補正書、意見書提出

平成23年2月14日             拒絶査定

平成23年6月20日             拒絶査定不服審判請求 手続補正書提出

平成23年10月31日            特許査定

特許査定につき取り消しを求める旨の行政不服審査法に基づく不服申し立て

平成24年4月26日                却下決定

 

・平成23年1月20日付の手続補正書に記載の特許請求の範囲

【請求項1】

下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。

  (化学式1~省略~)

前記化学式1において,X及びYは各々NまたはC-R 7 であり, 1及びR は各々水素原子,C -C アルコキシ,C -C アルキルまたはハロゲンであり,R 3 はC 1 -C 3 アルキルであり,R 4 ,R 5 ,R 6 及びR 7 は各々水素,C 1 -C 3 アルコキシ,C 1 -C 3 アルキル,C 1 -C 3 ハロアルキル,C 1 -C 3 アルキルカルボニル,ハロゲン,シアノまたはニト ロ で あ る 。 た だ し , R 1 及 び R 2 が 同 時 に 水 素 原 子 で あ る こ と は ない。」

 

・平成23年6月20日付の手続補正書に記載の特許請求の範囲

【請求項1】

下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。

  (化学式1~省略~)

    前記化学式1において,X及びYは各々NまたはC-R 7 であり, 1はフッ素であり,R は塩素であり,R 3 はC 1 -C 3 アルキルであり,R4 ,R 5 ,R 6 及びR 7 は各々水素,C 1 -C 3 アルコキシ,C 1 -C 3 アルキル,C 1 -C 3 ハロアルキル,C 1 -C 3 アルキルカルボニル,ハロゲン,シアノまたはニトロである。ただし,R 1 及びR 2 が同時に水素原子であることはない。」

 

・本来すべきであった補正

・・・R1はフッ素であり,R2は水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキルまたは塩素であり・・・

 

2.原告の請求

(1)特許査定の無効の確認

(2)却下決定の取消

(3)特許査定の取消

 

3.裁判所の判断

(1)特許法195条の4の「査定」に特許査定は含まれるのか

 特許法195条の4が,これらの処分等につき行服法による不服申立ての対象外とした趣旨は,これらの処分等については,特許法上,当該処分に対する不服を審理すべき手続が別に存在し,かつ,当該手続によって当該処分の不服を審理することが必要かつ適切であると認められることにあると解することができる。 

 これに対し,特許査定については,特許法上,特許法特有の手続としての不服申立手続については特に定めが置かれていない。(中略)特許査定につき,その不服を審理すべき別の手続として行訴法3条2項に基づく特許査定取消しの訴え又は同法3条4項に基づく無効確認の訴えを挙げることができる。これらの訴えは,たとえ特許法195条の4の「査定」の中に特許査定が含まれ,特許査定については行政不服審査の申立てができないと解した場合であっても,特許査定が行政処分である以上,その訴訟の対象から除外されることはないと考えられる(中略)したがって,特許法195条の4の「査定」の中に特許査定を含めて考えるべきかを検討するに当たり,これらの訴訟による救済によって,不服申立手続として十分であり,特許査定に対する不服はこれらの手続によるとすることが必要かつ適切であるかについて検討する。

 まず,特許査定に対する実体的理由に基づく不服について検討する。(中略)後者の不服(特許の実体的要件を備えないのに特許がされたという不服)について,特許法は,特許無効審判を請求することができるものとしており,(中略)それ以上に不服申立てを認める必要はないものと解される。前者の不服(特許査定された内容よりも出願人に有利な範囲の特許がされるべきであったとする不服)については,それが出願人の真意に基づく出願どおりに特許査定された限りにおいては,出願人は出願どおりの利益処分を受けたのであるから,実体的理由に基づくその救済手続を認める必要は存しない。また,仮に,審査官において出願より狭い範囲の特許査定しかできない場合は,通常,拒絶査定がされるのであるから,それに対する不服申立てである拒絶査定不服審判を申し立てれば足りる。

 そうすると,特許査定に対する実体的理由に基づく不服については,(中略)他の手段によることが必要かつ適切かを問うまでもないと考えられる

  したがって,特許法195条の4の「査定」について,特許査定の実体的理由に基づく不服を申し立てる場合を含まないと解釈する必要はないものと解される。

 

 次に,特許査定に対する手続的理由に基づく不服について検討する。特許法における手続的理由に基づく不服申立についてみると,不適法な手続であって補正をすることができない場合の却下(特許法133条の2)のように出願人側の手続違背の場合の取扱いについての規定はあるものの,審査官側の手続違背を理由とする救済手段についての定めは見当たらない。(中略)行服法においては,行政の適正な運営の確保のために,実体的な違法理由だけではなく,手続的な違法理由をも考慮し,同法1条1項の「違法…な処分」であるか否かが審査されるものというべきである。

 以上のとおり,行服法は,行政機関の専門的知識を活用し,簡易迅速な手続により,行政庁の違法(手続的違法を含む)又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し,国民に対し広く行政庁に対する不服申立ての途を開くことを目的として制定されたものであるところ,特許査定について,特許法上,特段,審査官側の手続違背についての定めがないことに照らせば,審査官の手続違背による違法について,行服法上の不服申立手続(行服法1条1項)を排除し,行訴法上の訴えのみをその救済手段とすることが必要であり,又は適切であるとみるべき事情は見出せない。

 被告は,特許査定が利益処分であって,出願人がこれを争う利益を有する場合が想定し難いことを理由として,行服法による不服申立てを排除することは相当である旨主張するが,審査官の手続違背を理由として特許査定を取り消すことが相当とされる場合があり得ることは,特許庁作成の「職権取消通知等に関する審査官用マニュアル」(甲14の3)にも挙げられているとおりであって,出願人が特許査定を争うべき場合が想定されないとはいうことができない。(中略)

 以上によれば,特許査定について審査官の手続違背を理由とする不服については, 特許法195条の4において列記された処分につきみられた,前記アの「行政不服審査法による不服申立てをすることができない」とすることが相当である理由,がいずれも妥当しないのであるから,同条にいう「査定」には特許査定の全てが含まれるのではなく,処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないものと解するのが相当である。 

 

(2)本件特許査定についての取消事由の有無

 まず,本件において,担当審査官に,原告らが主張するような手続上の義務が課されているといえるか否かについて検討する。(中略)

 審査官は,その資格によって,専門的知識を有する者であることが担保され,かつ,除斥の規定によって,その公正性も担保されているものであり,特許法は,このように専門的知識を有し,かつ,公正性が担保された審査官に特許出願を審査させるものとすることにより(特許法47条1項),特許審査が公正かつ適切にされることを担保し,発明の適切な保護を確保しているものと解される。 

 (中略)

 拒絶理由通知及びこれに対する意見書の提出・補正の機会を設けた特許法の上記趣旨に鑑みると,拒絶理由通知が特許出願人に正しく理解され,これに対応した意見書の提出及び補正がされ,審査官がこれを十分に理解することによって,適正な内容の特許査定又は拒絶査定がされることを特許法は予定しているものと解することができる。 

(中略)

 拒絶査定がされた場合においても,特許出願人がこれに対し拒絶査定不服審判を請求し,かつ,意見書及び補正書を提出する場合には,同様に,上記拒絶理由が特許出願人に正しく理解され,これに対応した意見書の提出及び補正がされ,審査官においてこれを十分に理解することによって,適正な内容の審査が行われることを特許法は予定しているものと解される。 

 もとより,特許出願人は,願書における特許請求の範囲を自ら決定することができ(特許法36条2項),審査官は,当該特許出願について,その実体的特許要件の審査を行うのであるから(特許法49条,51条),審査官は,特段の事情がない限り,出願人の出願に係る特許請求の範囲に記載された発明が特許要件を充たすか否かを判断すれば足り,これを超えて出願人の出願内容がその真意に沿うものであるか否かを確認する義務はない。 

 しかし,拒絶理由通知又は拒絶査定がされ,これに対し意見書の提出及び補正をする場合については,上述したその趣旨からみて,拒絶理由を出願人が正しく理解し,これに対応した意見書の提出及び補正がされ,審査官においてこれを十分に理解して審査を行うことが予定されているのであるから,拒絶理由通知又は拒絶査定に記載された拒絶理由と補正の内容とがかみ合ったものであることが,その前提として,特許法上予定されているものというべきである。

 そうすると,拒絶理由通知又は拒絶査定に記載された拒絶理由と意見書又は補正書(通常,意見書と補正書の趣旨は一致することから,以下においては,両者のうち補正書及びそれによる補正のみをとり上げる。)の内容が全くかみ合っておらず,当該補正書が,出願人の真意に基づき作成されたものとはおよそ考え難い場合であって,そのことが審査の経緯及び補正の内容等からみて審査官に明白であるため,審査官において補正の正確な趣旨を理解して審査を行うことが困難であるような場合には,このような補正に係る発明につき適正に審査を行うことが困難であり,また,発明の適正な保護にも資さないのであるから,審査官は,特許出願人の手続的利益を確保し,自らの審査内容の適正と発明の適正な保護を確保するため,補正の趣旨・真意について特許出願人に対し確認すべき手続上の義務を負うものというべきである。

(中略)

 以上によれば,本件において,担当審査官は,本件特許査定に先立つ審査に当たり,特許出願人である原告らに対し,本件補正の内容が原告らの真意に沿うものであるかどうかを確認すべき手続上の義務があったところ,上記義務を怠ったものであり,担当審査官には手続上の義務違背があったものと認められる。

 他方,本件特許査定に手続上の重大な瑕疵があることは前述のとおりであるところ,上記手続上の瑕疵により,本件特許査定の内容に影響が及ぶものであることは明らかであるから,本件特許査定はこの点において取消しを免れない。

 

4.考察

 本件裁判は特許法195条の4でいう「査定」に特許査定が含まれるか否かという点が争点になったものである。

 特許庁側は当然に同条の「査定」には特許査定が含まれるものと判断し、原告の不服申し立てを却下したが、裁判所は処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないものと解するのが相当であるとの判断をした。

 本件にあっては、電話面接での代理人の提案した補正案よりも著しく範囲の狭い請求項とする手続補正書が提出されたこと等を勘案して、審査官が原告の真意を確認する義務を怠ったとして、手続違背が認められた。

 

 出願人(代理人)の過誤が明らかであり、真意に基づいた手続がされていないことが明白な場合には、審査官には出願人へ確認する義務があること、そしてかかる義務を怠った場合には手続違背となること、そしてかかる手続違背の下なされた特許査定に対しては行政不服審査法による不服申し立てを行うことができること、が示された新しい判例であると言える。

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